大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所妙寺支部 事件番号不詳 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告の申立並びに主張

(請求の趣旨)

被告は原告に対し金百四十五万円及び之に対する昭和二十八年九月二十九日(訴状送達の翌日)から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(請求の原因)

(1)原告は、昭和二十八年五月十日訴外中修平より同人所有の和歌山県伊都郡恋野村大字中道字中峰五九三番地、同所五九六番地ノ一両地上に生立する杉、檜立木全部(以下本件立木と略称する)を代金百四十五万円で買受け、その所有権を取得した。そして代金は、同日内金五十万円を支払い、残金は同年七月八日支払う約定であつたが、同訴外人の懇請により同年六月十八日金五十万円、同年七月八日金七万円を支払つた。

(2)ところが被告は同年八月中旬頃本件立木の伐採に着手し、その大半を伐り倒してしまつたので、原告は昭和二十八年八月三十一日和歌山地方裁判所妙寺支部にその伐採禁止、搬出禁止の仮処分命令を申請し、同裁判所の其の旨の決定を受けて仮処分の執行をなしたところ、被告より仮処分取消の申立をなした結果同裁判所において昭和二十八年十月十四日仮処分決定取消の判決があり、該判決は確定したため、被告は本件立木を全部伐採し搬出処分してしまつた。

(3)原告は、被告の右不法行為により本件立木に対する所有権を侵害され、金百四十五万円(立木伐採当時の時価相当額)の損害を蒙つたので、右損害の賠償を求め、且つ右損害金に対する訴状送達の翌日である昭和二十八年九月二十九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張に対する陳述)

(1)被告が本件立木を中修平から買受けたとの点は否認する。

(2)仮りに、被告が本件立木を中修平から買受けたとしても、被告は民法第一七七条にいわゆる第三者に該当しない。

また、立木は土地そのものではなく、一般取引不動産として取引されていないから、伐採のため立木を売買した場合には公示方法を施す必要はなく、民法第一七七条の適用はない。

(3)仮りに、本件立木の取得につき明認方法を施す必要があるとしても、原告は本件立木につき上田正一をして黒墨で横線を書き入れて明認方法を施しているので被告に対し所有権を対抗することができる。

(4)以上の主張が理由がないとしても、被告は吉野木材協同組合連合会(以下連合会と略称する)及びその債務者である中修平と共謀し、本件立木を連合会の債権取立のため、原告に売渡された立木であることを知りながら売渡担保とした旨の公正証書を作成したが、連合会自身が之を伐採することは連合会の性質上困難なので、連合会の組合員である被告に依頼し、売買に仮託して被告が伐採したものであるから、被告の立木伐採は信義に反するものであつて、公示方法の欠缺を主張することは許されない。

また、被告は中修平、橋本昇、鶴本圭作と共謀して原告に対し本件立木を買受けたい旨申込んだので、原告は他に売却したり又は自ら伐採したりすることを中止していたのであるが、その間に被告が本件立木を、伐採してしまつたのであるから、被告の行為は原告の売却又は伐採を遷延せしめたことになるのである、不動産登記法第四条は詐欺又は強迫により登記の申請を妨げた者は登記の欠缺を主張することができない旨規定されているが、本件は被告が恰も原告を欺いて登記の申請を妨げたと同視すべき行為をなしたものであるから、被告は公示方法の欠缺を主張し得ないものである。

二、被告の申立及び答弁並びに主張

(申立)

主文と同趣旨の判決を求める。

(答弁)

(1)請求の原因(1)項について

原告主張の事実は否認する

(2)同(2)項について

原告主張の事実は認める。

(3)同(3)項について

原告主張の事実は争う。

(主張)

(イ)仮りに、原告が中修平から本件立木を買受けたとしても、原告は本件立木の取得につき明認方法を講じていないから、第三者である被告に対抗することはできない。

(ロ)被告は、昭和二十八年七月二十七日中修平から本件立木を代金百八十万円で買受け、代金全額を支払つたものである。

当時被告は中修平から本件立木の引渡を受け、直ちに人夫数名をして連日終日伐採し、如何なる方法よりも勝れた所有権移転を確実に第三者に明認せしめる手段をとりつつあつたのであるから、被告は本件立木につき所有権の取得を原告に対抗し得べきことは一点の疑のないところである。

(ハ)仮りに前項の主張が理由がないとしても、本件立木は右伐採により土地の定着物たる性質を脱し、同時に被告は対外的に動産として原始的にその所有権を取得したものである。

以上の次第で、本件立木(伐採済木材についても)の所有権は完全に被告に帰属したものであるから本訴請求は失当である。

三、証拠関係(省略)

理由

成立に争のない甲第三号証の一、二、三、甲第十一号証、乙第九号証の一、二、証人坂本広治(第一、二回)、上田正一、和泉常雄、中川ショノ、南出修三、木綿清次郎の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに以上の証拠により成立を認めうる甲第一、二号証、甲第四、五、六号証、甲第十二号証を綜合すれば、原告は昭和二十八年五月十日訴外中修平より同人所有の本件立木を代金百四十五万円で買受け、代金の内金百七万円を支払つたことを認めることができる。

証人中修平の証言中右認定に反する部分は前掲の各証拠に照らして措信しがたい。

また、成立に争のない乙第二、三号証、乙第五、六、七、八号証証人鶴本圭作、清水善市、中修平の各証言、被告本人尋問の結果並びに以上の証拠により成立を認めうる乙第一号証、同第四号証、同第十号証、第十二号証の一ないし六を綜合すれば、中修平は被告に対し昭和二十八年七月二十七日本件立木を代金百八十万円で売渡し、被告は同月二十九日代金の支払を了したことが認められる。

被告において本件立木を全部伐採し搬出処分してしまつたことは当事者間に争がない。また、本件立木について立木法の適用のないことは弁論の全趣旨により明らかである。

立木は不動産であつて、民法第一七七条の適用のあることはいうまでもない。山林の立木が、伐採の目的をもつて売買された場合と雖も、未だ之を伐採しない間は土地の定着物であつて、不動産であるからその所有権の取得につき他人をして之を明認せしめるに足りる行為を為さない限り第三者に対抗することはできない。前記認定の事実によれば、被告が民法第一七七条にいわゆる第三者に該当することは明らかであるから、原告において被告に対し本件立木の取得を対抗するには、明認方法を講じなくてはならないのであるが、原告において明認方法を講じたことは、原告の全立証によるも認めることができない。尤も、訴外上田正一が原告に頼まれて本件立木に墨で横線を書き入れたことが認められるけれども、原告の氏名を表示したものではないから、これにより対抗要件を具備したものとはいえない。また、原告主張の「被告が吉野木材協同組合連合会及び中修平と共謀し売買に仮託して本件立木を伐採した、との事実及び被告が中修平、橋本昇、鶴本圭作と共謀し、原告に対し本件立木を買受けたい旨申入れ、原告を欺いて原告の本件立木の処分を妨げた、との事実」は原告の全立証によるも之を認めることができない。したがつて被告において明認方法の欠缺を主張し得ないとの原告の主張は理由がない。

本件立木はその所有者であつた中修平から原告、被告双方に対し二重に売渡されたのであるが、原告において明認方法を講じなかつたことは前記認定のとおりであり、また、被告の全立証によるも、被告において明認方法を講じたことは認められない。(被告において、立木の伐採に着手したからといつて明認方法を講じたものとはいえない。)このように両者が明認方法を講じていない場合には、互に相手方に対し立木の所有権を主張し得ない関係にあることはいうまでもない。

しかし、立木は伐採により動産となる。被告は本件立木を全部伐採しこれを占有していたのであるから、右伐採と同時に適法にその伐倒木につき所有権を取得したものといわなければならない。したがつて、原告は右伐倒木につき所有権を主張し得ないわけである。

以上説示の通り、原告は被告に対し本件立木並びに伐倒木につき所有権を主張し得ない関係にあり、したがつて、所有権に基き損害賠償の請求をなし得ないことが明らかであるから、原告の本訴請求は失当として之を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(昭和三二年一〇月三一日 和歌山地方裁判所妙寺支部)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!